朝日新聞「論壇みえ」
 

平成14年10月2日(水)(朝刊の掲載内容)

  テーマ  豊かな水辺取り戻そう 

 子どもの頃、近くの水田地帯にある小川や鈴鹿川でよく魚取りをした。当時、川には多様な魚や水生昆虫などがいて、子どもも大人も憩える豊かな水辺環境があった。
 魚などの生息域としての川は、高度経済成長期を経て大きく変化した。現在の川は、地図上でのほぼ青い線の部分となってしまった。かつての川は、本支流だけでなく、水田地帯に張り巡らされた農業用の水路、ため池、水田をも含む面的な広がりを持ったものだった。フナやナマズなどは、増水時に遡上し産卵する習性があり、水田は重要な産卵場所でもあった。
 かつての農業用の水路、細い川といった小川は、魚などの生育にとても重要な役割を果たしていた。緩やかな流れ、豊富な水草や石積みの護岸、水の絶えない土水路であったため、多様で豊かな生命を育んだ。また、本支流と水田やため池を結ぶ葉脈のごとく機能し、その回遊のための重要な水路でもあった。
 川の変化には、山林の保水力低下、汚排水の流入、河川関係工事など様々な要因が関係している。とりわけ、稲作地域では農業近代化のため耕地整理が行われ、用・排水路の分離とそのコンクリート化が図られた。数多くの細い川も治水・利水のためコンクリート水路と化し、農業用排水路と同様に流出口には落差のある水落が設けられた。本支流においても、数多くの治水、利水のための堰堤(えんてい)が設置された。
 こうした近代的工法による治水、利水対策により、かつての小川は失われ、魚などの生息域は川の本支流に狭められた。本支流では水質悪化に加え、堰堤が水の流れを分断し、天然アユやウナギなどの遡上に支障となるなどその回遊環境が大きく損なわれた。
 気がつけば、身近に慣れ親しんだ小川はなく、水田地帯から魚などが姿を消した。本支流においても水辺をにぎわした魚などが少くなった。 
 私たちは川の重要性に気づくべきである。子どもたちにとり、身近に生きた自然と接し、地域の豊かな環境を学び、地域との絆を深める場として極めて重要である。大人にとっても、憩い、癒し等の場として再認識されるべきだろう。
 近年、住民による川の環境改善に向けた動きが広がりつつある。行政も目を向け始めた。また、法規制や下水道の整備等とともに川の水質改善も見られ、本支流には魚などが戻り始めた。
 しかし、ゆりかごでもあった小川が失われ、その遡上・回遊を阻害する堰堤等がある限りは、川に多様で豊かな魚などの世界は戻りはしないだろう。 
 かつてのような豊かな水辺環境を取り戻すには、何よりも私たち自身が地域の川・水辺に対してより関心を持つことだ。川、水路の改善に対する水利権者等の理解と行政の積極的な取組みが求められる。コンクリートの水路や水落を改善し、堰堤へ有効な魚道を設置することがまず必要だ。具体的な改善には、負担や維持管理の問題が伴なう。息の長い取組みとなろう。 


 亀山の自然環境を愛する会会員
   桜 井 好 基





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